.予防と健康ブロックレポート
1.はじめに
予防と健康ブロックのレポート作成にあたり、先ず2つのビデオ「うつ病」・「アスベスト」の閲覧と、私の場合は「アスベスト」に関連するキーワードを基にした科学論文を2つ読んだ。そしてビデオに関する感想と、論文の要約、それらを踏まえた上での私の目指す医師像についての考察を述べる。
2.選んだキーワード
論文を選ぶキーワードとして、「Fibrosis(線維症)」を選んだ。これはビデオの「アスベスト」に関連したものがあるとして選択した。これを選んだのは、アスベストはその危険性が危惧されていたにもかかわらず過去に大量に使われたものであり、またそのアスベストがどのようにして病気を引き起こすか医師になるのなら知っておくべきだ、と考えたからである。
3.選んだ論文の内容の概略
「アスベスト」に関連したものとして選択した論文は、「マウスの肺におけるアスベストが引き起こすPKCδの活性化経路によるMMP12とMMP13の調節」かなり難しい内容かもしれないが、アスベストに関する深い知識が得られると考えこの論文を選択した。
上記の論文の内容の概略について述べる。
「アスベスト」は炎症・発癌・線維症の作用物質としては知られているが、「アスベスト」が肺の病気を引き起こす仕組みについては解明されていない。そこで、線維発生のモデルを吸入させたマウスを使い「アスベスト」が引き起こす、肺のMMPs12,13(Matrix MetalloProteinases:細胞内タンパクを加水分解するエンドペプチターゼのサブファミリー)とTIMP1(Tissue Inhibitor of MetalloProteinases:メタロプロテインアーゼの阻害剤)のmRNAの深刻な増加、また同様にBALF(bronchoalveolar lavage fluids:気管支肺胞洗浄液)の中のMMP2,9,12の活性化を明らかにする。PKCδノックアウトマウスを使い、肺のMMP12とMMP13に表れる減少傾向を明らかにし、その結果を野生型のマウスと比較検討した。
マウスのU型肺胞上皮細胞(C10)と初期の肺線維芽細胞に小分子阻害物を使う研究は「アスベスト」が転写を活性化(EGFRを経てMMPsを調節するもしくわほかの成長因子受容体)させることを明らかにした。その上、広域スペクトルMMP阻害物を使用する事で、MMPsが「アスベスト」の活性化を促進する重要な役割を持っていることを明らかにした。これらのデータは「アスベスト」のシグナリングと細胞外間質の基準の間に重要な関係があることが明らかにされた。
肺癌、中皮腫などの腫瘍と肺線維症の進行は「アスベスト」の線維の吸入が関連している。これらの病気は基礎医学、臨床医学の研究者たちによって熱心に研究されているが、癌形成と線維形成の過程を作る決定的な細胞メカニズムはまだわかっていない。免疫システムの細胞(肺胞マクロファージ、好中球、リンパ球)と気管支上皮細胞、肺胞上皮細胞、線維芽細胞を含む標的細胞の間の相互作用の多様性は肺癌、中皮腫、線維症の病因と進行を左右する可能性がある。アスベスト線維による酸化ストレスが炎症を引き起こすことと肺線維症の進行、同様に気道上皮細胞の傷害と増殖は以前に示した。
MMPsとTIMPsは肺の構造と機能の維持と亢進、それらの肺の再構築・損傷における統制不良時に直接現れる。異常なECMの蓄積は特発性の肺線維症の患者の肺で観察される。遺伝子発現の研究者達もMMP7がマウスと人間の肺線維の調節の鍵かもしれないことを明らかにしている。
肺癌と肺線維症の病因として、MMPsが肺線維の衰弱と再構築の時だけじゃなく、IGFs(インスリン増加因子)、TGF‐β、TNF‐α(腫瘍壊疽因子‐α)といった繊維芽成長因子の活性化・放出に直結している可能性がある。
アスベストに侵された肺上皮細胞の増殖とアポトーシスの調節にPKCδシグナルが役割をもっていることは以前示した。肺線維症、特別な肺上皮細胞、それと繊維芽細胞のモデルマウスを使った現在の研究で、アスベストがPKCδを経由しMMP12とMMP13の調節力を増加させる原因であることを初めて示した。
4.考察
「アスベスト」のビデオ観賞と「アスベスト」に関連するキーワード(fibrosis)の英語
論文を読んだが、まだ「アスベスト」に関して知識が足らないと感じ、「アスベスト」についていくつか調べながら考察をする。
「アスベスト」自体が問題なのではなく、高い濃度で飛び散り、長い期間で大量に吸い込むことが問題となる。そのため、労働安全衛生法や大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで予防や飛散防止などが図られている。日本では1975年に吹き付けアスベストの使用が禁止された。しかし、この動きは遅く「クボタ」をはじめとする様々な企業で使われた結果、製造に携わっていた従業員やその家族だけでなく、工場の周囲数Kmの範囲に住んでいた住人にまで被害が広がっていた。被害というのは、すでに述べたように長期間アスベストを吸入することによって、塵医肺・肺線維症・肺癌・悪性中皮腫などが起こる健康被害問題のことである。今までにメディアで報道された、従業員に健康被害があった企業は59社で、健康被害を受けた従業員は557人、うち451人が中皮腫、塵肺で死亡している。また、その死亡者は2010年に10万人に上ると予想されている。ここで、中皮腫とは正確には悪性胸膜中皮腫といい、胸膜中皮から発生する腫瘍で、
男性に多く、60歳が好発年齢である。成因はアスベスト被爆がほとんどで、被爆から発病までの期間は一般的に30〜40年くらいといわれている。ただし、具体的な発生機序はわかっていない。初期には多発性の結節または斑状で、胸膜線維化と多量の胸水を伴う。進行するとびまん性に一側肺全体を取り囲み、肺内、横隔膜、胸壁に直接浸潤を呈する病変である。これほど被害が広がったのは1970年以降の高度経済成長期にビルなどの断熱・保熱の目的でアスベストが大量に使われていたことによる。そもそもアスベストは耐久性・耐熱性・耐薬品性・電気絶縁性などの特性に非常に優れ安価であるため「奇跡の鉱物」として重用されてきた。政府はこのアスベストの危険性を日本で多用される30年も前から知っていたが実際にアスベストが完全に禁止されたのは2004年になってからである。
この政府の判断は正しいのか。1973年にアメリカ合衆国で、世界で最初のアスベストの製造物責任が追求され、認定されている。この時点で日本もアスベストについて検討するべきだった。しかし、物が急速に作られていた高度経済成長期に、安価で使いやすい「奇跡の鉱物」を規制することはできなかったのかもしれない。まずは経済力をつけることが目標だった時代にヒトの健康は軽視されていた。最近のテレビで見た映像だが、高度経済成長期には環境汚染がピークで、家庭用洗剤で泡立つ川、廃水の垂れ流しなど、自然環境とヒトのことは二の次になっていた。利益のために将来待ち受けるリスクに目をつぶる、こんな時代だったからこそ、40年近くたった今になって問題になるのだろう。また、今現在の問題はアスベストによる健康被害者が増えてきたことだけでなく、高度経済成長期に建てられた建造物を将来解体するときに、それに大量に含まれているアスベストを長期間吸う労働者に健康被害が発生する恐れがあることである。しかし、アスベストは建造物を解体しない限り危険性はない言われている。解体工事時には多量のアスベストが飛散する恐れがあり、一種のアスベスト騒動で心配になったからといって、すぐに除去工事を行うことはリスクを増大させる恐れがある。学校・病院など、公共建造物ではアスベストの撤去作業が進められているが、解体作業者の安全性を考慮するとアスベストを撤去したほうが安全なのか、そのまま撤去しない方が安全なのかが難しいところである。学校などの解体作業者が将来20〜40年後に中皮腫になることについても懸念がもたれており、この懸念を2040年問題という言葉で表現する人もいる。
また、アスベスト工事除去後に必ずしもアスベスト飛散量が減少していないという報告がされているように、除去工事の方法やその効果も十分には検討されていない。環境学者の中では「室内や空調にアスベストを使用しても、大気中のアスベスト濃度とさほど基準値を超えない」という見解でほぼ一致しているらしい。安全なアスベスト除去法が示されるまでは、除去工事による利益と危険性を考慮し、慎重に対応する必要があるだろう。
5、まとめ
アスベストについてのビデオ、それとアスベストに関連した英語論文を読むことによってこの物質の危険性と、それに反して使われてきた時代背景について考えることができた。
私が医者になり、働いている間に中皮腫の患者は増えてくることを考えると、どれだけこの問題が深刻なものかがよくわかる。それに未だにアスベストの中皮腫を引き起こすプロセスは解明されていない。これからの医学の発展に期待したい。